上等な三線の皮 一番皮、二番皮とは?

尻尾側の皮が一番側

本皮一枚張りを選ぶ際に、一般的に鱗(ウロコ)が大きく、形の良い皮が上質な皮と言われます。蛇皮を手に取るとその違いがよくわかるのですが、きれいなひし形の鱗や真四角の形の良い鱗の皮もあれば、縦長な鱗の皮もあります。


縦長の鱗より真四角またはひし型の鱗は、皮の厚みもあり、丈夫で上質とされています。この上質と言われる皮が「一番皮、二番皮」です。


この一番、二番という数字は何を指すのでしょうか。


写真に薄っすらと一番の文字が書かれています。

一番皮とは、蛇の尻尾の部分を指します。尻尾から頭にかけての順番を指し、番号が大きくなるにつれて頭の皮へ近付いていきます。

 

二番側は尻尾から数えて二番目に位置する皮という意味です。

 

蛇皮は尻尾に近いほうが皮が硬く、蛇の胴周りの皮は柔らかくできています。尻尾に近い一番皮は鱗が大きく厚みがあり、丈夫なので切れにくく強く張ることができます。上質 = 硬いという意味ではなく、硬くて色艶がよく、鱗の形がきれいなものを上質と呼びますので、必ずしも一番皮が上質という意味ではありません。


本皮一枚張りは見た目で選ぶと好みの音が出ない

三線は見た目も大事ですが、一番重要なのは音です。

厚みがある皮は、強く張ると高音になり、スッキリとした音色を奏でてくれますが、厚みがある皮を弱く張ると振動が鈍り響きが悪くなります。つまり、最適な音色作りには蛇皮の厚みと張り方が重要になってくるのです。

 

さらに詳しく書きますと、音は棹の振動がチーガーに伝わり、チーガーに張られた蛇皮の振動で増幅されます。

 

音の伝導の仕組みを考えると、薄い皮のほうが簡単に振動し、皮が揺れて音を跳ね返しやすくなります。逆に厚手の皮の場合は、振動に力がいるため、強く張らないと振動が鈍くなります。


この原理を考慮すると、好みの音によっては必ずしも厚い皮が最適とは言えません。

優しい哀愁漂う音色を求める場合、高音とは逆の音になりますので、蛇皮を弱めに張ります。弱めに張るには薄手または中厚の皮を選んだ方が響きが良くなります。


一番皮、二番皮が上質と言われますが、五番皮、六番皮になると薄くなるため、弱めに張るには適していると言えます。


しかしながらその分厚手の皮に比べて強度が劣ってきますので、薄手で丈夫な皮は上質と言えるのです。




表に張る皮と裏に張る皮の違い

色艶の良いきれいな鱗の三線用蛇皮
色艶の良いきれいな鱗の蛇皮 表側

弦が張られているほうの皮を表側、自分に向いているほうを裏側と言います。

 

実は、この表側と裏側の皮の張る強さは異なっています。もし三線をお持ちの場合は、表側の皮を軽く指で叩き、裏側を叩いた音との違いを確かめてみるとわかります。

 

表側の皮のほうが高音の音が鳴るはずです。これは、三線がきれいな音を奏でるために、表と裏の皮の強度を異なる比率にしているからです。

 


蛇側の7番目、8番目の皮
7~8番目の皮。並質の皮を使った場合の裏側

一般的に言われてる比率は、表が8分張りだと裏は6分張り。裏は2分下がりと言われてます(職人によって多少異なります)。

 

つまり、三線屋で8分張り、7分張りなどの表現で使われる皮の張りの強さは、表側の張り具合を指す指標なのです。裏側はそこから2分ほど弱く張られます。これが最も音をきれいに増幅する強度と言われています。皮張り替えで表皮を弱めにしたい時は、裏の皮も弱めにしないとベストな音色になりません。


ちなみに、鱗の見た目の良い皮を表にし、裏側は通常人から見られないので多少見た目の劣る皮を張ります。


三線 蛇皮の色と艶

さて、蛇は一匹一匹皮の厚みも違えば、色合いも異なります。

 

色合いが明るい皮もあれば、濃い目の色合いで渋めな皮もあります。大事なことですが、色合いでは音色は変わりません。

 

色と艶に関しては、見た目の好みです。

よって、どんな色、どんな模様が好みかで選んで良いと思います。

 

なかには艶の無い皮もありますが、艶の無い皮は一般的にあまり好まれてません。


色艶が良い三線蛇上皮。5~6番目の薄めの皮
色艶が良い上皮。5~6番目の薄めの皮
三線蛇皮
色艶があまりよくなく上皮とは言えない。

楔張りとジャッキ張りの違い

三線の胴 ジャッキ張り
ジャッキ張り

伝統的技法の楔張りは、グルテンを発酵させて接着剤を作ります。

 

グルテンは硬化に時間がかかるため、その時間を利用して皮の張り具合を微調整することが可能です。蛇皮の動きを見ながら少しずつ力を加えていくことができます。

 

近年、楔張りで張る職人さんが少なくなって来たのは、時間がかかるのもありますが、グルテンの接着剤が経年の劣化で湿気で剥がれたりのトラブルがあったからだと思われます。

 

近年ほとんどの職人がジャッキ張りで皮を張ってます。


 

ジャッキ張りは施工時間が短く、強い力を加えることが可能です。皮の動きに合わせて8点のターンバックルで微調整ができますので、張り具合は全面均等に施工できます。強力接着剤を使って施工するので、湿気などで剥がれるトラブルが少ないのでが利点です。また、後処理も綺麗にできるので、棹と胴の継ぎ目を綺麗に仕上げることができます。

 

伝統的技法の音色が良いとされる方もいますが、近代的技法の方がいい音で継ぎ目の処理がきれいと言われる方もいます。

三線皮張りの強さと音色の違い

最後に、皮の張り具合による音の違いを聞き比べてみてください。

自分の好みの音がどういうものなのか、実際に研究されると良いかもしれません。また、その音を求める際に、職人さんに「一番皮の上質な皮で強めに張って欲しい」と注文するよりも、できるだけ好みの音を伝え、そこから先の皮や張り方はお任せするほうが良いと思います。餅は餅屋ということですね。

 

張り強め

張り普通


張り弱め

張り超弱め